OECDモデル租税条約によると、「税務当局が条約適用の可否を判断する事前確認を行う条件として二重課税防止条約の関連規定に従って各国或いは各地域が課すことのできる税率を自動的に制限することとする、或いは国内法に基づく既定の税率での税金を課し、その後、租税条約に基づいて課すことが出来る金額を超える部分を払い戻すこととする。」という原則が示されています。
2013年8月19日のフィリピン最高裁判所においてドイツ銀行マニラ支店と国税庁が租税条約に基づく軽減税率の適用可否の判決が出てから、国税庁内部において租税条約の適用について様々な解釈や運用がなされてきましたが、現行の条約適用に関する国内ルールや指針がOECDモデル租税条約に基づき正当に与えられる権利や利益が受益者によって享受されることを保証するという締約国の目的に則していないという判決を受け、2021年3月31日、租税条約にかかる非居住者への利子、ロイヤルティ、配当、現地支店利益の国外送金等を支払う場合の最終源泉徴収税の租税条約運用指針が改めて示されました。
主な変更点は以下の通りです。
1.これまで使用されていたCORTT Formを廃止し、Form No. 0901を使用。
2.海外(日本など)の税務当局から発行されるTax Residency Certificate (TRC)の提出。
3.国内源泉徴収義務者より申請する場合、Request for Confirmationの提出。
4.申請に必要な書類一式を各会計期末後、4カ月以内にITAD (International Tax Affairs Division)に提出。
5.申請は各取引ごとに行う。(長期契約を除く)
6.すべての書類が提出されたのち、ITADは4カ月以内に処理を終了する。
必要書類
1.Letter Request (鏡文:レターリクエスト)
2.Application Form No. 0901 (申請書式)
3.Tax Residency Certificate (日本の税務署から納税居住者証明書)
4.海外送金を行ったことを証明する書類 (振替依頼書、送金証明書等)
5.当該送金にかかる源泉徴収税を納付したことを証明する書類(納付書)
6.当該送金にかかる納税申告書
7.委任状
8.海外法人の定款や履歴事項証明書(英訳したものを添付)
9.送金根拠を示す契約書や株主総会議事録、取締役会議事録等
その他必要書類
1.海外のパススルー事業体(パートナーシップ等)への送金の場合は、事業体からの利益を享受する受益者ごとに条約適用の可否が判断されるため、最終受益者が条約締結国に居住しているかどうかを判断されることと、受益者特定のための当該国の法律条文のコピー
2.パススルー事業体の場合は、パートナーのリスト
3.事業体の所有を証明する書類
当該条約の適用を受け、当初より軽減税率を適用するには、Request for Confirmationがフィリピン国内の支払者から提出される必要があるため、取引の相手方の協力が必要となってきます。国外事業者側からのアプローチはというと、まずは通常税率による納税を行っておき、TTRAにより還付請求を行うことができるとされていますが、国外事業者はフィリピン国内に銀行口座を保有していないことが一般的であり、還付は国内源泉徴収義務者を介して行われることが予想されます。すなわち取引後もフィリピン国内の取引相手先と良好な関係を維持しておくことが求められます。 またRequest for Confirmationの提出により当初から軽減税率により納税を行っていた場合であって、後日BIRから申請が否認されたケースにおいて、延滞税やペナルティなどの罰則や納税不足分にかかる税負担がフィリピン国内事業者に転嫁されることとなりますので、そのようなケースに備えて追加の税負担等について、国外事業者と国内事業者との間でどのように取り扱うかを明記した契約を当初から作成しておく必要があります。
また、想定される取引がフィリピン国外(日本やシンガポール等)の親会社との関連当事者間取引の場合は、原則として移転価格文書の作成と保管が求められることにも留意が必要です。それぞれの税務調査の際に取引価格やその他取引条件が第三者取引に準じたものになっているかの正当性や妥当性を納税者側が示す必要があります。